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原毛(げんもう)「ヒゲ」

筆の穂は様々な動物の毛が使用されている。
その中で私が処理を任された初めての原毛(穂先の原料となる未処理の毛)は「ヒゲ」と呼ばれる羊毛だ。

羊毛?
ヒツジのモコモコとした毛が筆になるのか?
しかもヒゲ?
ヒツジのヒゲ?
何だそりゃ?
そんな疑問を抱いたあなた、心配ご無用。
筆に使われる「羊毛」とは一般的に思い浮かべる「ヒツジ」の毛ではない。
中国で食用として飼育されている「山羊(ヤギ)」の毛である。
なるほどヤギか。という事は、「ヒゲ」はヤギのあご髭だな。
そう納得したいところだが、なぜか尻尾の毛をそう呼んでいるようだ。

イントネーションも「髭」とは異なり「卑下」と同じ。
「ヒ」で上がり「ゲ」で下がる。筆の世界、謎が多い。
一言で「羊毛」と言っても部位によって毛質が異なり、呼び名も違う。
特に首あたりの毛は「細光鋒(さいこうほう)」と呼ばれ、細くて長くしなやかだ。高貴な御令嬢と言ったところだろうか。
一方で「ヒゲ」は元気なおてんば娘。
繊細さでは引けを取るものの弾力性に富み、多少の事ではへこたれない強さを感じる毛だ。
筆の弾力や腰の強さを求める時、この娘達が大活躍するのである。
今回の「ヒゲ」は「根付き」と呼ばれるもので長短の毛が根元の薄皮でまとまり大小の束になっている。
その束、大きいもので軽く一握り程度だろうか。
短い毛もあれば長い毛もある。

原毛には切りそろえられて長さ毎に束ねられた「束毛(そくもう)」という形態もあるが、時として上質な毛と出会えるのが「根付き」の醍醐味だと師匠が教えてくれた。
さてこの「根付き」の「ヒゲ」、その毛は直毛ではなくウェーブがかかっており、表面の油分も墨含みの邪魔となる。
まだまだ筆に出来る状態ではない。
まずはそういった筆に不適な要素を取り除くことから筆作りが始まるのだが、それについてはまた改めて。

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