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あい氏の奮闘記 ~日本の伝統展 前編~

5月、東京の日本橋高島屋にて開催される「日本の伝統展」に営業のYさんとともに参加することになった。私の役目は実演と販売。まだまだ修行中の身であり、「職人」という肩書きに複雑な思いもあるが、これまでに得た知識、技術をフル活動させて対応するしかない。
開催前日にYさんと東京に入る。出店準備と都内の客先訪問を行い、その日を終えた。

Yさんは経験豊富で知識も半端ない。筆については何を聞いても丁寧に教えてくれる。しかし開催二日目と三日目、Yさんは他の客先訪問のため不在である。
その2日間が私にとって大きなヤマ場となる事は間違いない。

そう思っていた。

今回私が行う実演は「練り混ぜ」だ。「練り混ぜ」とは、数種類の筆の毛を混ぜ合わせる工程で、「はんさし」と呼ばれる15センチ程度の特殊な小刀や、毛を押さえる箸置き程度の薄い竹の板「平目竹(ひらめたけ)」などを巧みに使い、糊水で湿らせた毛を広げては再びまとめ櫛をかける、これを繰り返す作業である。

この日に備え、社内でも「練り混ぜ」の鍛錬を重ねていたが、毛を束ねた「くれ」と呼ばれる状態から「練り混ぜ」用に毛を取り分ける最初の作業は毛がもつれて苦戦していた。
「開店前に取り分けを済ませ、お客が来る前に櫛を掛けておく。」これが私の作戦だ。

そしていよいよ初日、私は予定通り早めに会場に入った。

さて、何から取り掛かろうか…。

そんな余裕を見せていたが、店舗周りの最終準備や近隣の出店業者への挨拶、そして朝礼等、あれよあれよと時は過ぎ、気付くと開店間際になっていた。
やばい。取り分けがまだだ。急がねば!

ところがだ。

ここは百貨店。

開店時間を直立して待ち、お客様をお辞儀して迎えるという格式高い儀式が待っていた。周りを見ると、既に皆その態勢だ。

こ、こんなしきたりが!?

そして何も出来ないうちに我が店舗にも客が来た。
「いらっしゃいませ。」

いの一番でご来店頂いた方は営業のYさんと顔見知りの方だった。
時間を稼いでくれYさん!
だが、挨拶もそこそこにYさんが言う。
「今回は職人さんが来てるので見ていって下さい。」
Yさん早い、早いっ!
大ピンチである。

(つづく)

  • コメント ( 1 )

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  1. 白岩大佑

    アイさん。新たなお仕事に進まれたのをお聞きし驚きましたが、わたしの気持ちが高揚しました。決断は簡単ではなかったと思いますが、これからも共に歩ませてください。とても大きな刺激をもらえました。次にお会いできるときはたくさん話を聞かせください。

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