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あい氏の奮闘記 ~日本の伝統展 後編~

店頭デビューとなった「日本の伝統展」
予想に反し、初日の開店直後いきなり大きなヤマ場を迎えることになった。
お客様が見つめる中で毛の取り分けから作業を行う、これは最も避けたい状況だった。
焦る私に追い打ちをかけるようにそのお客様が言う。
「動画を撮ってもいいですか?」
おいおい!
「どうぞ、どうぞ。」
Yさーん!
Yさん、菩薩様のような笑み。もはや逃げ場無し。
意を決して「はんさし」を手にするが、正しく握れているかどうかすらわからない。噴き出す汗。高まる緊張感。

練り混ぜ の作業風景(サンプル)

案の定、不器用な手つきで取り分けた毛は乱れ、その上「練り混ぜ」用としては毛の量が多い。私でもわかる。これは絶対うまくいかない典型的な状況だ。
毛を減らすべきだ!
そう思ったが、緊張のあまり動き出した両手はもう止まらない。
ダメだ。櫛が十分にかかっていない!
広がるはずの毛も、そんな状態では広がるはずもない。奇跡は起こらず、ただただ残念な「練り混ぜ」が繰り返された。
動画を撮られたお客様、ごめんなさい!

この大きな試練のおかげ?で、その後はトラブルも無く、接客や実演を繰り返すうちに終了時間を迎える事となった。質問には概ねYさんが対応。お客様と一緒に説明を聞いて、お客様と一緒に「なるほど」と頷く。いい勉強会であった。
一人で対応した二日目、三日目も無事終了。わからない質問はYさんや師匠に確認して回答を得る。こちらも勉強になるのだから、お客様の質問は本当にありがたい。
残り2日は再びYさんと二人体制。土日という事もあってお客は増えたが、Yさんがそばにいるだけで安心感が違う。
この5日間、様々な用途で様々な年代の方々が、筆を選びに、また眺めに訪れてくれた。
最近書道を始めた人、特殊な筆を探す人、手紙を筆で書く人、香道で筆を使う人、抽象画を描く人、好みの筆を指名買いする人、逆に新たな筆を探す人、仕事で筆を使う人、etc…。
筆の種類は多い。用途は同じでも毛の種類や太さ、長さ、軸の具合など、色々な要素が異なっており、選ぶお客様も真剣だ。
いつの日か、私が関わった筆が誰かの手に渡る時が来るだろう。その時、その筆は使い手の期待にこたえられるだろうか。使い手の生の声、生の姿に触れ、不安と責任の重さが改めて胸に響く。だが、それ故に「やりがい」があると言えるのだ。

先日の広テレ「沿線遺産」でのあい氏

入社3カ月で迎えた「日本の伝統展」
最終日はYさんが一人で対応してくれる。私は今日まで。
15時前にYさんから声がかかった。
「お疲れ様でした。もういいですよ。」
私は使った道具を片付け、後ろ髪を引かれる思いで少し早めに会場を後にした。
内容の濃い、刺激的な5日間だった。
来店頂いたお客様、色々助けてくれたYさん、職場の先輩方、そして会場のスタッフや業者の皆さん、関わった全ての人に感謝を伝えたい。
(完)

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